このコラムは無料メールマガジン「アメニティ&サウンド音と快適の空間へ」 vol.12〜vol.64(2002年8/15〜2004年11/18)に音響システムの関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
Iosono(アイオソノ)というスピーカ・アレイを使った3D音響システムの記事がHotwired Japanに掲載されていました。 『MP3生みの親が作り出した新しい3D音響システム』というタイトルの引きはうまいですね。
▼『MP3生みの親が作り出した新しい3D音響システム』
Hotwired Japan テクノロジ News 2004年7月29日
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/technology/story/20040729301.html
アイオソノの記事を見ると多数のスピーカ(300本)を使って仮想音源の位置をシミュレーションする技術のひとつで、技術的に新規性があるというものではないようです。 新規性があるとするとタブレットとMP4音源、PCを使って音源のコントロール(定位)をしているところかもしれません。
立体音響には大別すると「リスナーが体験した音を再現する」発想の技術と「仮想の音源を作ることで音場を再現する」ものがあります。
前者は、ダミーヘッド録音やヘッドホン・サラウンド、2スピーカでのサラウンドなどに見られるリスニング・ポイントの両耳の音を再現するものでコンシューマ製品もあります。
ヘッドホンでサラウンド再生する製品などはリスナー側でのアプローチです。
一方、音源を作るタイプは、リスニング・ルームで音源からの音波を再現したり、仮想の点音源が存在するかのように複数のスピーカを使ってシミュレーションするのがポピュラーです。
複数のスピーカを並べたスピーカ・アレイを使った音源シミュレーションは、記事のアイオソノ以外でもいくつか発表されています。 スピーカ・アレイを使った技術の中には、無指向性の点音源スピーカを実現するためのものがありますが、これは立体音響とは別の目的を持ったものです。
▼ご参考:平面方向ですがスピーカアレイでの音源(焦点)を作る
イメージが判りやすいです。
『分散マイク・スピーカーによる音の多焦点同時形成』
独立行政法人 産業技術総合研究所
http://www.dh.aist.go.jp/research/sasaeru/soundspot/speaker_mic.htm
一般のAVアンプに搭載されている仮想音源シミュレーションによるサラウンドの技術は、リアスピーカなど複数のスピーカを利用しているものがありますが、どちらかというと前者のリスナータイプの技術であること普通かと思います(全てとは断言できません)。
現在のAVサラウンド・システム(5.1ch,7.1ch)を立体音響として考えた時、物理的に決定的不足している要因は上下方向の音源です。
上にも下にもスピーカはありませんから、通常の定位ミックスで音場を再現することはできません。
また、スピーカ・アレイ方式と異なり、水平方向にのみ音を出している5.1chの場合リスニング・ポイントでのシミュレーションをするしか物理的な方法がありませんから、DSPなどで音場シミュレーションをする機能は、リスニング・ポイントでの技術を採用することになります。
映画ソフトでの再生では、上下方向に関しては、映像と音響効果による演出で臨場感を持たせるという工夫がされているだけで、実際には上下方向のリアルな音場演出はできません。
これは劇場のサラウンドであっても、上下方向のチャンネルはありませんから大差ありません。
真上からヘリコプターが降下してくるとか頭上を飛行機が低空で通過するというシーンを音で演出することはできませんが、ヘリの音を全周から流した後、カメラをロングショットに変えて降下している様子を写し、再び着地付近のカットに切り替えるような演出にすることで、音が上から下に降下してこなくても問題ないシーンになります。
逆にいうと、上下の定位が可能であれば、上下方向の音場も考慮され、演出が変わるかもしれません。
アイオソノの記事では「コンシューマー製品に……」などと記載されていましたが、上下方向については、このようなソフトの事情が変わらない限り生かせませんから、採用されるとすると仮想的にルーム・サイズを超えた、部屋の外に広くスピーカを配置したような利用方法なのかもしれません。
次の劇場用サラウンド方式では上下方向とスピーカ数の増加が検討されているようですし、スピーカは沢山使って臨場感を増す方向を見ていることは間違いないでしょう。
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「アメニティ&サウンド音と快適の空間へ」 vol.12〜vol.64に 音響システムの関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
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「アメニティ&サウンド 音と快適の空間へ」のvol.1〜10に連載していた 音圧レベル分布と伝送周波数特性に関連したコラムをサウンド コラムのページに編集して掲載しました。
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