リバーブは、残響を付加するエフェクトです。 ディレイやエコーと比べて複雑なインパルス応答をもつのが特徴です。
残響は、音源からの音波が壁などに反射しながらエネルギー減衰し、様々な方向から遅れて到達する複雑な組合せの反射音です。
室内で音源から発音すると受音点には最初に直接音が到達します。 直接音は音源から出てどこにも反射せずに受音点に直接到達した音です。 直接音に続いて壁、天井、床などに反射した音(反射音)が受音点に到達します。
上の図は、直接音と壁に一度だけ反射して到達する音の様子を模式的に表したものです。 実際は、壁に複数回反射して到達する音がありますので、時間の経過と共にあらゆる方向から反射音が到達し複雑な反響になります。
到達時間の早い特徴的な反射音を初期反射音(アーリーリフレクション:Early Refrection)、 それに続く複雑な反射音群を残響音(リバーブ)と呼びます。 残響音は後部残響音とも呼ばれます。
このように室内の反射音の構造は次の音波から構成されていると考えられます。
直接音 | 音源から直接到達する音 |
---|---|
初期反射音 | 直接音から短い時間に到達する反射音 |
後部残響音 | 初期反射音より遅れて到達する反射音 |
直接音に対する初期反射音の到達時間は、音の明瞭さに関係しており、建築音響設計では重要な設計指標となります。
音の明瞭度を表す物理指標としてD値(Deutlichkeit)やC値(Clarity) が提案され、建物音響分野の評価に利用されています。
D値は音の全体のエネルギーに対する初期(50msec以内)のエネルギーの割合を示し、 C値は80msec以降のエネルギーに対する80msec以内のエネルギーの割合を示しています。
C値とD値の値は、大きいほど明瞭度が良いことになります。 また、初期反射音は、直接音とは異なる方向から到達しますが、 直接音との時間差が短い場合、直接音の方向感を損なうことなく、聴感上、直接音を補強します(ハース効果)。
このように、初期反射音は、残響としてだけでなく、音質に影響を与える音響上の重要なファクターでもあります。
残響が反射音の集合であるならば、音源をパルス音にするとその残響はパルス(に近い) 反射音の集合のようになるはずです。パルス音を発したときの反射音の集合パターンを測定できれば、 反射による部屋の特性を定量化することになります。この定量化した特性がインパルス応答特性です。
音が壁に入射すると、壁の吸音特性によって音のエネルギーの一部が壁に吸音され、一部が透過し、 残りが室内に反射します。壁の吸音は周波数特性を持ちますので、インパルス応答は部屋の応答を表す特性となります。
インパルス応答を測定することで部屋の反射音の時間的構造を得ることができ、残響特性をグラフ化したり、 音場の再現シミュレーションすることが可能になります。
室内に音源となるスピーカとマイクロホンを設置し、音源とマイクロホンの間の伝達特性を測定することによってインパルス応答を得ることができます。 測定したインパルス応答には、室内の直接音、初期反射音、後部残響音、周波数特性など全ての情報が含まれています。
建築音響設計の分野では、部屋の幾何的な形状から反射音の到達経路のシミュレーション計算を行いインパルス応答のような反射音のパターンを算出することで設計段階で音響特性を評価することが行われます。 また、建物の音響的な評価にインパルス応答の測定結果が利用されています。
残響時間は室内の響きの状態を示す指標の一つで、室内の音のエネルギーが-60dB(100万分の1)に なるまでの時間を残響時間と定義し、RT60と表記されます。 単に「残響時間」とのみ表現された時には、通常RT60のことを指しています。
残響時間の測定をサウンドレベルメーター(騒音計)で測定する場合は、ピンクノイズやピストルの発射音などを音源として残響音のレベルが減衰するまでの時間を計測します。 M系列ノイズやTSP(Time Stretched Pluse)、パルスを利用してインパルス応答を測定した場合には、室内のインパルス応答をシュレーダー積分して得られるエネルギー減衰カーブ(残響波形)から求めることができます。
残響波形は次式で求めることができます。
次のグラフは、上に掲載しているインパルス応答から上式で算出した残響波形です。 この部屋の残響時間は約2.36秒となります。
残響時間の計算には、C.F.Eyringが提案した建物の容積、表面積、平均吸音率から概算する計算式があり、 建築設計時の残響時間の予測に利用されています。
アイリングの残響計算は、ここで述べるリバーブの信号処理とは無関係ですが、残響時間の計算としてポピュラーなものです。
リバーブレータは残響音を人工的に作り出すものです。 カラオケ装置、AVアンプ(AVセンター、ホームシアターシステム)、楽器用エフェクタなどのエコー装置に使用されています。 エコーと呼ばれている残響は、実際にはリバーブレーターの効果であることが一般的です。 通常、リバーブレーターは単にリバーブと呼ばれています。
リバーブは、方式によって次のような分類になります(代表的な方式です)。
アナログ方式 |
プレートリバーブ(鉄板) スプリングリバーブ(スプリング) |
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コムフィルター |
シュレーダー方式 Moorer方式 FDN(Feedback Delay Network)方式 |
インパルス畳込み |
FIRフィルター(シミュレーション) サンプリング・リバーブ(FFT) |
アナログの方式は、それぞれ、鉄板、スプリングを振動させて、ピックアップで応答を電気信号に変換する電気方式です。 コムフィルターを使う方式とインパルス畳込み方式は、DSPやカスタムLSIによる(パソコンの場合CPU)デジタル信号処理によって実現されています。
コムフィルターの方式は、フィードバックディレイとデジタルフィルターの応用的な手法で、インパルス畳込み方式は、長時間の応答のデジタルフィルターです。
次のページでは、デジタル信号処理によるリバーブの詳細について記します。