このコラムは無料メールマガジン「アメニティ&サウンド音と快適の空間へ」 vol.12〜vol.64(2002年8/15〜2004年11/18)に音響システムの関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
前回は、海の音響に関してソナーの話題と問題となっている低周波ソナーについてでした。
前回でも触れましたように、低周波ソナーは海洋生物に対する影響から問題とされているわけですが、海洋の水温の分布などの測定にも利用される場合があります。
水中での音速が空気中より高速であることは前回も述べましたが、海中では、電波や光が短距離で減衰しますが、音波は減衰量が少ないという性質があります。特に、低周波は、拡散や減衰が少なく、長距離を伝達する性質があります。
音は空気中と同様、水中でも温度や圧力によって音速が変化します(海水の場合にはさらに塩分濃度などによる影響もあります)。
音速が変化することによって進行方向が屈折するため、上層に向かうと温度上昇によって屈折し、深部に向かうと圧力によって屈折するため、ある幅の深度の海中を蛇行しながら長距離伝播します。
この音波が長距離伝播する層は「SOFAR(Sound Fixing And Ranging)」と呼ばれています。 SOFAR層は(海洋)音響チャンネルと呼ばれるように、太平洋をまたいだ沿岸同士のような長距離での伝播が可能です。
冷戦下の米国は軍事目的で、世界中の海洋音響観測を行うSOSUS(Sound Surveill-ance System)という音響哨戒網を設置していました。
SOSUSは冷戦が終了した後、学術目的などにも利用開放されたため、海底火山やクジラなどの海洋生物の発する音などが観測できます。 広い海洋中に生息しているクジラの生態の音響的リアルタイム観測が可能になるなど、学術目的での利用に有用な音響観測網となっています。
▼SOFARの説明は、防衛大学の防大タイムズ2003年4月
研究室紹介「海洋音響学研究室」に200Kmの伝播の計算結果の
グラフが紹介されていてイメージがわかりやすいです。
http://www.nda.ac.jp/ad/boudaitimes/btms200304/taimuzu200304top.htm
(フレームページなのでフレームトップをリンクしています。
メニューの「研究室紹介」にSOFARの説明があります。)
海洋の温度は、衛星や海洋ブイなどでも観測されていますが、温度によって音速が変化することを利用して、海中に長距離伝達に適する低周波を流し、各所で受音した時間を測定すると、音源地点から受音点までの経路中の温度が推定でき、 沢山の計測点の組み合わせによって、地球規模での温度を測定することができます。
1980年代後半にはSOSUSを含む世界規模での測定実証が行われ、90年代には世界の海洋温度の音響観測が計画、組織化されましたが、海洋生物への影響の懸念から実現されず計画は終了しています(北極海の米-露共同計画などでは音響観測計画が継続しているようです)。
クジラのコミュニケーションは海中の音響チャンネルも利用して非常に遠距離のコミュニケーションをしているのではないかと言われています。
▼JAMSTEC 海洋科学技術センター
刊行物「Bule Earth」第14巻 第4号(通巻第60号)36,37Pに
「海のなかは音の世界 ナガスクジラのサウンドチャンネル」
という記事があります(PDF)
http://www.jamstec.go.jp/
「日本語ページ」-「刊行物閲覧室」-「Blue Erath」-
「第14巻 第4号(通巻第60号)(2002年7、8月)」順にたどる
とPDFの目次が表示されます。目次から各ページを閲覧できます。
低周波ソナーは、海中での低周波の減衰や拡散が少ない特性を利用した音響観測手法ですが、広域を観測する音源は、爆薬の爆発音など衝撃性の大音量を利用する必要があります。
クジラなどが生息していて、音を聞いている海域に大音量の爆発音などを与えることになるため影響が問題とされています。
215dBとも言われる大音量では「びっくりした」だけでは済まないだろう……ということです。
周期音も利用される場合があるようですが、この場合には、丁度、肺や内蔵などの器官が共鳴を起こすようなサイズの生物に破裂などのダメージを与えるかも知れないという点も懸念されています。
現在は、米海軍と環境団体との協議の結果、低周波ソナーの利用を「一部の海域(東アジア海域)を除いて」禁止となっています(日本海などは一部の禁止除外地域です)。
▼前回もご紹介したHotWiredの
「米海軍の低周波ソナーをめぐる訴訟、最終段階へ」
の続報は見つからないので米国での最終状況は判りませんが、
10月に日本海などでの限定利用を環境団体が容認というニュース
が一般ニュースで流れされていました。
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20030702306.html
つづきは次回に、それでは、次回もよろしくお付き合いください。
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