このコラムは無料メールマガジン「アメニティ&サウンド音と快適の空間へ」 vol.36〜vol.64(2003年8/21〜2004年11/18)に音響と開発の関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
9月30日に(2003年10月掲載時)、家庭向けエンターテイメント機能を強化したバージョンのOS、Wdinows XP Media Center Edition 2004が発表されました。
▼米Microsoft、Windows XP Media Center Edition 2004を発表
インプレス Internet Watch 2002年10月1日
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2003/10/01/606.html
Media Center PCは、TVの視聴や録画,写真,ビデオの編集、CD/DVDの再生などの家電系マルチメディア機能をより一般向けに充実させたバージョンで、専用のOSとしてデジタルPC家電として販売される機器にバンドリングされます。
メディア系の機能を実現する時、Windows XPには、多少、難点があります。
通常の機能では、CPUやバスのパワーなどで見かけ上、メディアPCが実現されて、リアルタイム性のある用途でも利用できるようになってはいますが、PCの限界の性能を生かしたリアルタイム処理に適した状態ではない部分があります。
例えば、USB 2.0は高速な通信となり音声や映像などをリアルタイムに扱うのにIEEE1394と遜色ないかのように語られますが、ローランドのUSB オーディオ・インターフェイス「UA-1000」に専用のパッチが必要であったように、OSは、マルチチャンネルの音声転送速度を保証するだけパワーを与えるようになっておらず、プリエンプティブなOSだった時のように特定の処理に集中的にパワーを優先割当てする傾向があります(集中させてマルチメディア対応している)。
▼第116回:USB 2.0対応Audioインターフェイス「UA-1000」
〜 開発者に聞いたUSB 2.0採用のわけ 〜
インプレスAVウォッチ 2003年9月22日
藤本健の週刊 Digital Audio Laboratory
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20030922/dal116.htm
メディアプレーヤーなどCD/DVD再生などを行う処理は優先的に時間配分されていますので問題が生じませんが、何らかの事情で優先処理がCPU占有すると、優先度が非常に高いために、フリーズした時のようにマルチタスクの堅牢性もユーザーに対するリアクションも保てなくなるような状態が発生します。
キーボード入力は高い優先順位が与えられるなど、旧来のPCのパワーであってもパフォーマンスが得られるように、特定の部分に特化した設計になっている所にメディア系のリアルタイム処理を同居させているためか、現在のPCのパワーでは実現可能な内容でもOSの管理の問題が生じる場合もあります。
単純に均等なマルチタスクでは実現できなかった部分もありますから、現状を無条件に否定はできませんが、改善の必要がありそうです。
ローランドのUA-1000は24bit/96kHzでも8ch以上で録音・再生が同時にできるUSBオーディオ・インターフェースですが、OSがUSBバスの転送に高いスループットでドライバに処理時間を与えないと実現できないだろうことは容易に想像できます。
インタビューにあるようにWindows XPにアップデートパッチによって、製品が利用できるようになったようです。
UA-1000に付属する以外にはアップデートは未定のようですが、Windows XP SP2あたりには含まれることになるのでしょうか。
UA-1000やMedia Center PCなどの対応で、リアルタイム処理のための等時性保証が考慮できるように変化するタイミングが来ているようです。
ベストエフォートとは通信の用語で、最大スペックの通信速度は保証されないものの、時々の「最善を尽くすように努力」の結果、最適な通信をする方式を呼びます。
人気のADSLなどもベストエフォート型ですし、EthernetやInternetも通信状況によって通信品質が変化するベストエフォート型の通信です。
▼ベストエフォート型
ASCII24 アスキーデジタル用語辞典
http://yougo.ascii24.com/gh/30/003099.html
▼ベストエフォート型
@IT: Insider's Computer Dictionary
http://www.atmarkit.co.jp/icd/root/87/5784787.html
現在人気のADSLの通信速度など、前回話題にしましたHDD容量の差の問題などないに等しいほど大きいので「全ての法規制のないサービスの数字をベストエフォートと謳えば性能保証はしなくてすむ」というような皮肉のジョークも言われるくらいの速度差を許容するのもベストエフォート型の一面ともいえます。
もっとも、通信の世界では携帯電話の電波状況などベストエフォート型であることのメリットが大きい場合もありし、インターネット網もベストエフォート型であるために急速に回線網を広げることができたといえます。
もし、現在のマルチメディアコンテンツなどの配信でも困らないような回線速度や品質を保証するような規格となっていれば、低速な回線を含めて広く接続することはできません。
また、高速化が技術的に可能になった時点で、新たな回線速度の規格とすることになりますし、下位互換性を取ると保証との関係が生じます。
上記のリアルタイムのための等時性保証で取り上げたUSBやIEEE1394(FIreWire,i-Link)は、AVに利用できることを前提に考えられた通信規格になっていますので、速度を保証する方法があらかじめ決められています。
これが上記の同期型のデータ送信の部分です。
そもそも、パソコンのOSは、ベストエフォート的に時々の最善動作をしている性質が強く、速度的、時間的な保証をすることは考慮されていない傾向にあります。
これがゲームやAVなどのリアルタイム性の必要な利用方法において問題となりました(そこで掟破りの Direct X ですね)。
現在は、PCの基本性能が高速になったため、まだベストエフォート的性質が残っていながらも、リアルタイム性のある目的でも利用できるようになってきたというところでしょうか。
IP電話をPCで動作させた場合などは、回線も音声処理も全てがベスト エフォートです。
回線状況やPCの状況によっては、普通に通話できればラッキーな電話回線ともなりかねない通信サービスですが、ついに10月末より(2003年10月掲載時)NTTで正式に固定電話とIP電話回線の接続を受け付けられるようになります。
ベストエフォート通信でのストリーミングでは、通信が途絶えると、映像の場合には、コマ落ちのような処理をすることで、連続性を維持することになりますが、音響の場合には、音が途切れてしまい、映像ほど許容できる品質で継続再生することができません。
そのためReal Playerなどの可変通信速度に対応したストリーミングでは、通信速度にあわせてできるだけバッファが途絶えないように、再生の速度や以後の通信量を控えるように変化させて、最後まで音が継続するような優先になっています(映像が停止して音だけになります)。
映像も画像品質を低下させないほうが好ましいのは確かですが、視覚より、聴覚の方が敏感で、音の最低品質は、比較的高く保たれないと、非常に気になります。
本来、ベストエフォートのHTTPプロトコルの上での音の通信は、あまり適していない基盤に築かれてネットワーク利用している状況です。
当然、ネットワークが最大要求時に通信最低品位を満たされるような設計にすることはインターネットの規模やスケール変動に適していませんので、現在のネットワークプロトコルのまま、最低品質を保証できるリアルタイム性のストリーミングは、実現することが難しいことは通信事業者でなくても容易に想像できます。
今年の8月(2003年11月掲載時)のCNETのコラムに、インターネットのベストエフォートに関するコラムが掲載されていました。
▼「ベストエフォート」が死語となる日
Dr. Lawrence Roberts
CNET Japan エキスパートの視点: 2003年8月29日
http://japan.cnet.com/news/pers/story/0,2000047682,20060642,00.htm
次世代ルータに関連してベストエフォートでは、ブロードバンド型マルチメディア・ストリーミングが要求する最低通信品質を維持できないことから「死語となる日」の表題となっている、速度バランスを取る次世代ルータの動向などを話題にしたコラムです。
通信速度の確保が要求されていることはコラムの通りです。...が、現在、身辺に存在する機器、携帯電話、IP電話、パソコンの動作も、衛星放送の受信状態なども、ベストエフォートやベストエフォート的に、最悪の場合サービスが停止することもあるのが前提の機器が多数です。
さらに、今後、複数回線のベストエフォートを推し進めた4G携帯電話などに向かうことになります(4Gは異なる通信ネットワークをベストエフォートで使いわけて通信をすることが目標とされています)。
ネットワーク負荷が局所集中してもブロードキャスト型の性質があって、一方向性が強いビデオ配信などでは、プロキシーでの分散キャッシュによる軽減も可能かもしれませんが、オンラインの対戦ゲームの場合には、プロキシーが有効に利用できませんので、オンライン対戦ゲームの通信が局所集中するとサービスが維持できないような限界、回線破綻する可能性が存在します。
ベストエフォートが死語となったといえるほど安定させるには、新たな負荷分散や帯域確保の技術、対策、プロトコル上の工夫などが必要なのだろうと思います。
ARIはハードウェア設計、製造、ファームウェア開発、 Windowsアプリケーションの開発をしています。 実績等に興味をお持ちいただけましたら、会社情報に主な開発実績を 「音響と開発」のコーナーには事例など関連情報を掲載していますのでご覧ください。
ソフト、ハードウェア 技術関連の雑記
このコラムは無料メールマガジン「アメニティ&サウンド 音と快適の空間へ」 vol.36〜vol.64(2003年8/21〜2004年11/18)に 音響と開発の関連コラムとして連載していたものを編集掲載したものです。
ソフトウェア開発と開発ツール関連の雑記
機器組込みのエンベデット・ソフトウェア(ファームウェア)の開発に関連したコラムです。 メールマガジン「アメニティ&サウンド 音と快適の空間へ」に連載していた技術・開発コラムを編集掲載しています。
技術・開発の閑話 : ソフト開発コラムファームウェア開発(組込み)の技術 / |
開発ツールの話 : ソフト開発コラムソフトウェアの分類 / |
プロジェクト初期 ツール評価 : ソフト開発ツールの話プロジェクト初期のツール評価 / プログラムの動作・ソースの作成 / コード生成 アセンブラ、コンパイラ / 型変換を伴う式評価(コード生成) / 暗黙のライブラリ(コンパイラ生成コード) / 組込みCPUのメモリアクセス / コード生成〜デバッガ |
デバッガとICE ツール評価2 : ソフト開発ツールの話CPU,DSPの内部の状態モニター / プロセッサ周辺のモニター(メモリ、I/O) / 実行の停止(ブレーク) / シングルステップ実行 / 任意部分の実行 / ヒストリー - 実行トレースとコマンド / 各種ファイルのロード、セーブ / シンボル化 |