ステレオエコーキャンセラーがモノラルのエコーキャンセラーと最も違いがある点は、 参照信号(スピーカー再生信号)がステレオである点です。 マイクがモノラルであっても、スピーカーから再生される音源がステレオとなる通話や、 音楽ソースなどを利用している時の音声認識システム用のエコーキャンセラーは、 ステレオスピーカーからマイクへの伝達関数が必要となります。
適応フィルターの伝達関数は、スピーカー出力信号がマイク入力信号となるまでの スピーカーやマイクの特性と含む回路の特性です。
制御の分野では、スピーカーとマイク間のような回路を未知のシステムなどと呼ばれ、 システムの伝達関数を推定することをシステム同定と呼びます。
スピーカーがステレオ再生をしている時、 マイク入力がモノラルであってもステレオ・エコーキャンセラーが必要となる理由は、 エコーキャンセラーを機能させるスピーカーの再生信号がステレオになるため、 左右それぞれのスピーカーからの伝達関数を同定し、音響エコーを抑制するためです。
音響エコーの発生原理はモノラル時とほぼ同じですが、左右のスピーカーからマイクへの経路と 参照信号(スピーカーの出力信号)は左右2系統が独立しているため、 それぞれからマイクへの伝達関数を別々に処理し、マイク入力信号から左右のスピーカーに起因した音響エコーを抑制し、送信信号とします。
ステレオ音声での通話でもステレオ対応のエコーキャンセラーが必要ですが、 マイクが2組使われ、送話ライン自体がステレオ化されているケースは、 それぞれのスピーカー対マイクの4つの組み合わせとなり、 ステレオ出力 - マイク入力のエコーキャンセラーを2組使うことになります (参照信号が同じなので共通とできる部分もあり、実装上、厳密には倍にはなりませんが)。
音声通話機器がステレオ通話されていることは少ないため、 エコーキャンセラーのステレオ化は、あまり、必要性がないと考えられるかもしれませんが、 このステレオ出力-モノラル入力のモデルは、先に述べたようにステレオ通話用ではありません。 ステレオ通話用には、同様の機構がステレオ入力に対応して2系統になったものです。
以降、ステレオ出力 - モノラル入力の基本的なタイプを中心に述べます。
ステレオ再生、モノラル入力のエコーキャンセラーがそのまま利用される用途は、 ステレオ音楽が再生されている中でその音楽を打ち消す必要がある車載機器(カーナビゲーションなど)の ハンズフリー音声認識システムなどが有用な用途です。
音楽を再生している時に音声認識機能によって、 再生している音楽を音声制御で停止したり、ナビゲーションを呼び出したりしようとすると、 マイクには音楽が入力されているため、音声認識システムは正常に認識できません。 音楽を手で停止してから音声認識を使うことはできますがシステムとしては今一つの操作方法です。
別の機器で再生されている音は適応フィルターの参照信号ではないため、単なる背景音に過ぎず、 影響を与えないで通過させるべき音に相当します。
適応フィルターでBGMをキャンセルするためには、 BGMで再生している音源の信号を参照信号とする必要があり、 BGMの再生機器とエコーキャンセラーが接続、 あるいは、一体化されている必要があります。
カーナビゲーションなど車載機器が用途として適している理由は カーステレオと音声系や操作が一体化されているケースがあるからです。
エコーキャンセラーを利用して音楽がマイクに入力される音響エコーを十分に抑制することで、 音声認識機能への信号は、操作者の音声が明瞭になり、音楽が鳴っていても音声認識が機能するようになります。 音声認識システムが、ガイダンス音声による操作ナビゲーションが行われる場合には、 ガイダンス音声に対しても同様にエコー抑制が必要になります。
J-FHFは、音楽や音声など有色音に対して性能が優れるため、このような音楽のエコーを抑制するような用途でも性能を発揮します。
適応フィルターのシステム同定のアルゴリズムは、 全帯域の信号を元にした白色雑音やピンクノイズのような音源が参照信号になると性能を発揮しやすい傾向にあります。 白色雑音では優秀に見えるアルゴリズムも有色音では期待した性能が出ず、 音声や音楽のみの参照信号では性能が発揮されないことになります。
J-FHFは参照信号をARモデルによって推定するため、有色音でも性能が発揮できるようになっています。
車載機器でのエコーキャンセラーには、ステレオ化によるBGMのキャンセルという面だけでなく、 走行雑音(ロードノイズ)が大きい場合でも性能を発揮することが求められます。 路面状態が悪かったり、高速走行時にはロードノイズが高いため、人の音声のS/Nが確保しにくくなります。
さらに、エコーキャンセラーの適応フィルターが外乱ノイズに対して弱い場合、走行ノイズによって キャンセル性能が維持できず、BGMをキャンセルする能力が低下します (「04.外乱とダブルトーク性能」)。
車載機器のエコーキャンセラーには外乱ノイズに対する性能が必要になります。
アーティフィット・ボイスのコアテクノロジーJ-FHF(高速H∞フィルター)方式は、 先に述べたように有色音に対応し、外乱ノイズ耐性に優れる特長を持つため、 車載機器のエコーキャンセラーとしても適した性能を発揮します。
Artifit Voice JFHF-ECシリーズは、 高速でロバストなJ-FHFをコアテクノロジーにした高性能なエコーキャンセラー製品です。 複数のOS、プロセッサー、DSPに対応しています。
エコーキャンセラーJFHF-ECの特長
高速、ロバスト、有色音、ノイズリダクション
JFHF-ECシリーズの機能と構成
AECコア、ノイズリダクション、AGC、EQ他
広い用途や応用用途のご案内、分野別特長
TVの電話通話 / 携帯・モバイル
PC音声通話 / インターフォン
会議システム / 電話・ハンズフリー
音声認識 / 自動車用音声機器
H∞制御による適応フィルター J-FHF
音響エコーの発生 / エコーキャンセラー
適応フィルター / 係数の更新 / 外乱の影響
外乱ノイズの影響 / ダブルトーク性能
ステレオエコーキャンセラーの用途、応用
エコーキャンセラー・ソフトウェア製品についてご不明な点などございましたら、 ARI Artifit Voice担当までお気軽にお問い合わせください。 お客様の秘守に関しましては機密保持契約(NDA)を締結させていただいた上でご相談賜ります。