【Vol.18】2003年12月号 |
「ARIアメニティ&サウンド マンスリー」は、 毎月 第4金曜日にお届けしています。 みなさまにお楽しみいただけますよう努力する所存ですので、 今後とも末永くお付き合いいただけますようお願い申し上げます。
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1. 技術・開発コラム ■研究利用のソフトウェア |
このコーナーは、
ディジタル機器の開発やソフトウェア開発にかかわることなど、
技術・開発に関するコラムをARIならではの観点で
お届けできればと考えています。
これまで組込みソフトウェアの話題やアプリケーションの話題、 振動システムなどに関連した信号処理など話をしたことがありますが、 今回は少し赴きが違う、 音響以外の信号処理を使ったアプリケーションソフトウェアの話題です。 |
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心電図検査法心臓の筋肉の動きを体表面の電気をモニターすることで調べるのが ご存知の心電図です。 人間の筋肉と神経系は、 電器信号として伝達されることから 筋電位を測定して神経系の伝達や 筋肉の動作を電器信号で調べることが可能ですが、 体内の心臓の筋肉の動きでも 体表面に小さな電器信号が現れるため、 これを調べることで心臓の状態を調べようという検査手法です。 |
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心電図のピックアップ波形心電図検査法は、 検査の経験がある方が多いかと思いますが、 吸盤のようになっている電器ピックアップを 体の表面数箇所に取り付けて電器信号を記録測定します。 心臓は、 模式的には「ドック、ドック」と動いている姿がイメージされますが、 動物の解剖状態や 手術時の実物の映像などを見た時を思い起こすと解るように、 3次元的な動きをしています。 その3次元の動きに対応して 体表面の電気信号の現れ方が部位によって異なり、 人によって心臓の位置や向きなども異なるので、 心臓の動きに伴う電気信号を測定するため 吸盤状のピックアップを複数取り付けます。 ある方向に動いているときには 特定のピックアップに電気信号が強く現れ、 他はあまり変動しないというようなことも起こっています( これを複数まとめると全ての動きの電気信号になります)。 また、 体の内部の心臓に連動する電位を測定できるということは、 肺や内蔵、 そのほかの体の動作に伴う電器信号もいっしょに測定されます。 そのため、 実際のピックアップ時点での生の測定波形は、 よくご存知の心電図の形の波形とは 似ても似つかないノイズにしか見えないような波形になっています。 |
ピックアップの取り付け方心電図のピックアップの取り付けは、 1種類の測定方法ではないので 検査機関によって胸部に複数数取り付けられたり、 手足につけられたり、 その時によって測定方法が異なると思われた経験がある方も いらっしゃるかもしれません。 ARIは医療機関ではないので 専門の詳細は省略しますが、 あの測定の違いは電気信号を記録する手法の違いによるものです。 心電図で用いられている信号は、 ノイズも含んだものを元にして いかに異常な特徴をもった信号があるかを発見したり、 さらに精密に検査する必要があるのかの ふるいにかけるような用途で利用されています。 体表面の電位を測定する心電図で詳細な状態がわかれば、 被験者の負担が非常に軽くてすむため、 得られた信号から病気を発見するかということが常に研究、 努力されています。 PQRST心電図の波形には、 アルファベットのP〜Tまでの名称がつけられて、 例えば、「P-Q間の時間」などと表現されます。 私たちが良く認識している波形の特徴はR-Sのあたりですね。 |
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移動平均とローパスフィルターノイズを含む信号から特定の信号を抽出する方法として、 音響や電気でも用いられる手法として 複数箇所の記録信号を加算して平均する方法があります。 離れた位置の複数のマイクで目的のターゲットの音を収音ミックスすると、 それぞれに記録されたターゲットの音の特徴が共通し ノイズ成分が異なるため、 ミックスされた信号は相対的にS/N(サウンド・ノイズ比)が向上します。 また、 周期性のある信号の場合、 周期にあわせてミックスすると、 特徴のある周期信号のS/Nが向上したものが得られます。 これは移動平均(加算平均)と呼ばれる手法です。 複数のピックアップで記録した電気信号をミックスして 1つの信号にすると同時に、 高い周波数成分を除去し(ローパスフィルターを通す)、10回分(例えば)の心拍の移動平均をした結果が、 あの見慣れた心電図の信号になっています。 実は、あの心電図波形は、 1回の心拍の動きではなく 移動平均やフィルターなどが掛けられて処理された結果なのです。 この加算平均心電図が心電図検査の全てではなく、 いろいろな手法がありますが(体表面ではなく心臓表面などで測定する方法など)、良く認知されているあの心電図計の管面の波形や 印刷されたグラフの波形は、 このような信号処理が行われた後の信号です。 信号から病気を発見する研究信号から病気を発見する方法については、 専門外なので、詳細を語る立場にありませんが、 以前に、 大学病院の心電図研究のためのソフトウェアを作成する というお手伝いをさせていただいたことがあります。 心電図の記録信号も、 電気信号(デジタル化)になっているため、 診断や研究に信号処理を利用して病気を発見しようと研究されています。 ある病状のある場合に、 心電図に現れる周期や信号波形の変化などを観察、 分析することで病気を発見しようという研究です。 ARIがお手伝いしたのは、 パソコン上のアプリケーションで心電図(先の記録手法とは異なる検査方式のデータですが)データを表示していろいろと計測できるようにすることと、 特定条件の繰り返し測定を自動化、 分析するためのデータを作成することを主眼とした簡単なものですが、 研究室ではFFTやウェーブレット変換など、 いろいろな手法での分析が行われています。 この心電図関係のコンテンツは現在WEBサイトに掲載していませんが、 近日中(来年になると思います)に掲載する予定です。 今回は、信号処理やカスタム・アプリケーションが利用される例として、 ほんのさわりだけですが、 心電図についてご紹介しました。 もし、興味がある方は、 医療機関や専門研究機関などで公開されている論文や 説明などをご覧いただくと正確でもっと詳細な知識が得られると思います。 |
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それでは、 次回もよろしくお付き合いください。 (^^)
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▲CONTENS |
2. 音と音響の四方山 ■感性という原点とフロンティア |
このコーナーは 音や音響についてのコラムをお届けしています。 あまり指向を決めているわけではありませんので 雑多な感じになりますが、 お付き合いいただければ幸いです。 | ||
前2回は、IEEEの機関雑誌の記事 「デジタルオーディオの最後のフロンティア」をきっかけにしたデジタルアンプとデジタルスピーカの話題をしました。 デジタルオーディオのテクノロジーに対する記事ですから「最後のフロンティア」と位置づけられていますが、 実は、映像や音響は、その特質から以前から、 2つの異なる領域を志向したテクノロジーが目指されているのだと考えています。 High Density、 Hi-Fi |
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1つは、High Density、Hi-Fiのような工学的にもなじみやすく、 指標が定めやすい分野です。 これは、デジタルオーディオやデジタル映像などの工業技術で利用され、 劇的な進化を果たしているといってよい部分でしょう。「デジタルオーディオの最後のフロンティア」は正にこの工業的な面での視点で見た場合の話です。 192KHz-24bitというような デジタルオーディオの再生技術に対して 実は、 スピーカやヘッドホンがどの程度まで空気振動に再現できるかという ダイナミックレジンジや周波数特性、ひずみ率の部分も、 まだ残っている技術課題ではないかと思います。 「着うた」、TV受信でHi-Fi携帯電話に代表されるような携帯機器の音声も 「着メロ」が「着うた」になってTV受信やビデオまで担うようになり、 小型、携帯の制約のスピーカでのHi-Fi化やディスプレイの高画質化は 誰もが考える方向性と言えるでしょう。 さらなる高品質な通話が重要であることは言うまでもありませんが(通信技術やコーデックなども含めて)、音楽、映像の再生機器としての役割を持つことによって、 従来の明瞭度や音量での指標のみならず、 オーディオ的Hi-Fi化という方向が見えています。 ここには、 音響も映像も小型、 携帯ならではの従来の技術分野にとどまらない 高品質化というものが存在していると思います。 ウォークマンなどのヘッドホンステレオは、 ヘッドホンによることでこの問題には至らない住み分けが起こっていますが、 携帯電話での高音質再生は ヘッドホンのみにとどまることになるかは 事情が少し異なるようにも思います。 |
192KHz-24BitサンプリングDVDとSACDの対応という製品が普及にするにつれて 特別なハイエンド製品ではなくても192KHz-24Bit、 マルチチャンネルのAV機器が多くなってきました(ついでに高音質... 単に差別化という感じも否めませんが)。 ほとんど存在しないといっても過言ではなかった 音楽ソフトなどの音源ソースも拡充されてきましたし、 SACDのハイブリット・ソフトなどで、 専用のプレーヤー以外でもCDレベルの再生が可能になり、 ソフト拡充が進んでいます。 LSIのレベルでのハイサンプリング対応も デジタルアンプ化で劇的に進んでいるため、 かなり普及帯のレベルに ハイサンプリング対応機器が登場してきています。 LSIでローコストに量産可能になることで、 サンプリング周波数をCDレベルに止める理由がなくなり ハイサンプリングに対応した製品が多くなります。 DVD-AudioDVD-Audioは、 オーディオ用のDVDのフォーマット規格で、 現在、多く普及しているDVD-Videoとはフォーマットが異なり、 プレーヤーがDVD-Audioを再生できる必要があります (再生不能な場合があります)。 さらに、 DVD-Audioを再生可能となっていても、 再生は44.1KHzや48KHzのの特性で再生される、 再生可能互換性だけを重視したプレーヤーもあります。 もし、 192KHz-24bitの音を聞きたいと 望んでDVD-Audio対応のプレーヤーを購入される場合には、 スペックではDVD-Audioが再生可能になっていても(再生はできますが)、再生時のD/Aコンバーターのサンプリング周波数に注意して 製品を選択する必要があります。 |
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携帯性に限定された技術映像で考えるとわかりやすいのですが、 映像の大画面化や高精細化というのは 携帯性とのジレンマが見えていますから、 AV機器のようなアプローチだけで 単純に高画質化というわけには行かないことは自明です。 同様に音響も、 小型スピーカでの物理的な限界による ナローバンドでのHi-Fiのあり方という技術、 すなわち、 明瞭度などのように感性分野に通ずるようなHi-Fiや高画質というものを 考えることが必要になります。 感性工学や社会的な課題デジタルオーディオから音響へと視野を広げると、 騒音、防音や音楽音響、 超音波などの技術応用まで多岐にわたります。 音響技術としては、まだ、 「最後のフロンティア」といえるステージは見えていないように思います。 騒音などの問題では、 社会性も伴うため一概に音響技術だけの問題とはいえませんが、 アクティブ・ノイズ・リダクションや分析技術、 素材技術のような音響技術で克服すべき課題があります。 音響も映像も人間の感覚関する分野ですから、 感性的な問題に行き着くことはしばしば起こります。 プロ音響や楽器、 オーディオなどは工業技術による技術を主として用いられているわけですが、 その評価や製品性などには「感性」や「感覚」を伴った技術が求められます。 感性や感覚を指標化するためのアプローチは 過去幾多にわたって行われていますが、 dBや最低可聴音などの工学的に確立されている基礎から 既に人間の感性の平均的指標からできていますから、 他の指標も感性に基づくことはいうまでもありません。 Hi-Fi化の技術が進む一方、 感性的な部分は、 やや置き去りにされてきた感があります。 これは、1つは、 数学や物理法則のようなアプローチが難しい分野であることも あるかと思いますが、 商業的にもHi-Fi化のように直結していなかったことが 大きな要因でしょう。 感性の分野がフロンティア的部分として残っていることは ずっと以前から認識されていますが、 一般には大きな関心を持たれていない状態できているようにみえます。 インタラクティブ映像情報メディア学会誌のVol.57 No.12 2003は、 「インタネットの新しい応用の開拓を目指して」 という小特集になっていました。 No.11は特集「映像メディアと感覚」です。 どちらも内容は、総論、概要にとどまりますが、 地上波デジタル、インターネット、TVゲームなど インタラクティブ性をもつ高品質なメディアをベースとした時、 その品質の高さと 単に再生にとどまらないことから 再び感性部分への関心が高くなっているかもしれません。 高音質、 マルチチャンネルによる臨場感における感性的な部分でも、 原音再生と映画や演劇の音響効果的などは 専門分野で研究されているとしても、 インタラクティブ性まで伴う部分では ゲームなどの極一部にとどまるのではないかと思いますし、 そのゲームも映画などの演出と同様な範囲であることが多いでしょう。 インタラクティブなメディアでの音声や音響効果などは「ピンポン」や「ブー」などのように(「へぇー」もそうかも)一般化に浸透している単純な記号的レベルもありますが、 複雑度の高い状況でのリアクション音などが、 それほど追求されているわけでもありません。 緊急避難誘導などでは、 心理的な研究成果によって非常放送音声は法定化されていますが、 これも決して確定的というわけでもなく、 社会状況などによって少しずつ変化している部分があります。 成熟した音響プロ音響では、経済情勢もあって、従来、 公共施設や商用施設の建設などに伴う設備、 ハードウェア的分野が主となっていたものが、 現在は、音響設備や放送が人に何をサービスするか、 高音質であるというのみではなく、 どのような音響的な目的をもってサービスするのかが 問われるようになってきています。 これは経済情勢によるところが大きいことは言うまでもありませんが、 「人」に対する音響、音環境に対して 感性や文化のようなレベルのより成熟したものを 求められているともいえます。 このように簡単に列挙してみると、 音響技術は、高音質な音場再現、創造を前提として、 人の感性に向きあう原点に 再び重心を移動する所にいるのかも知れません。 |
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それでは、次回もよろしくお付き合いください。 (^^)
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編集後記 |
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今回が今年最後のHTMLマンスリー版の配信になります。 今年も1年間ご愛顧いただきまして真にありがとうございました。 文章表現や内容が稚拙であったり、 ご期待に添えない場合も多々あったかとは存じます。 多くの皆様に寛容にあつきあいいただけてありがたく存じております。 皆様がお健やかに、 よい新年をお迎えになりますことをお祈りいたしまして、 本年のご挨拶とさせていただきます。 来年も今年同様、 よろしくお引き立て賜りますようお願い申しあげます。
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