【Vol.13】2003年7月号 |
「ARIアメニティ&サウンド マンスリー」は、 毎月 第4金曜日にお届けしています。 みなさまにお楽しみいただけますよう努力する所存ですので、 今後とも末永くお付き合いいただけますようお願い申し上げます。
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技術・開発コラム ■ 音を処理する【後編】 |
このコーナーは、
ディジタル機器の開発やソフトウェア開発にかかわることなど、
技術・開発に関するコラムをARIならではの観点で
お届けできればと考えています。
今回は、先月の続きの後半です。 デジタルの音響信号をCPUやDSPで処理する場合、 そのソフトウェアは、音質や場合によっては、音のキャラクタ (芯の太い音、広がり感のある音など) にも影響する場合があります。 |
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音感と信号処理 |
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前回は、語長や精度のことを軽く触れました。 前回のリバーブの例やボリューム演算によるビット落ちは、 極端でわかりやすい例ですが、 高級な演算を行うものとコストパフォーマンスに傾倒しているものでは、 途中過程の精度が異なっている場合があります。 スペック上では、同じ 24bit、32bitの語長を持っている製品同士でも、 高級な音質を求める製品では、 精度が必要となる中間処理での語長を最大限確保して演算しているため、 コストパフォーマンス品とは、数式上同じデジタル演算で、 基本が同じ語長であっても 音質が異なります。 |
オーディオ信号の場合、 演算する場合の語調が24bit程度は最低でも必要ですが、 純粋に最大語調が24bitで演算されていることは稀で、 イコライザなどの演算では、もっと語長が必要となるので、 最大演算語長 はもっと精度の高い演算になっています。 最大演算精度がある程度確保できると、 明らかな音質劣化は避けられるため、 それ以上の精度は品位や音感になってきます。 比較すると判断できますが、 最低でも一般に問題とされるレベルはクリアされているため、 機器のキャラクタ にとられる場合もあります。 |
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この語長や精度は音質などに現れる 理解しやすい部分です。 高級なAVアンプや楽器、エフェクタ などのスペックで基本となる語調と最大演算語長が セールスポイントに挙げらていることがあるのは、 このような最大の演算精度による音質の違いがあるためです。 ただし、 現在は、32bit浮動小数点や64bitというものが出てきていますから、 この点での差別化は少なくなってくるかもしれません。 |
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制御ソフトウェアによるキャラクタ |
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ここまでは、演算の精度や語長による 音の劣化に伴うキャラクタや音質 の話でしたが、ボリューム制御など、 制御系の処理でも音のキャラクタは変わります。 AV機器などでは、DSPによる演算部分が大半となり、 ボリューム制御などは一時的なものですが、 楽器やエフェクタ、ミキサーなどでは、 ボリューム制御などを 常にリアルタイムで変動させている状態があります。 少し長い時間の制御を伴ったり (フェードイン、アウトのように)、 コントローラーによって変化させる場合には、 CPUのソフトウェアが基本部分を制御し、 DSPや、専用ハードウェアが逐次演算が 必要な処理を行うようになっていることが多いようです。 |
DSPや専用ハードは、 CPUに比較して高速で完全に実時間で動作できますが、 コストが高く有限な処理しか実現できない場合が多いので、 CPUによって演算などの補助をすることで コスト的にも設計バランスとしても バランスのとれた機器にすることができます。 そのため、 CPUで制御する部分のリアルタイム性や、 ボリュームカーブ、 時間や語長などでも機器の音質のキャラクタが変化します。 ゆっくりとしたボリューム変化をする場合や 対数カーブで制御するなど DSPのリソースを消費するのが適さない場合には、 CPUがその補助制御を行っています。 この制御部分でも音質が変化します。 硬い、太いなど音感に現れる ことが多いかと思います。 |
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この制御部分などになると、 詳細なソフトウェアの設計や 実装に依存する部分が出てきます (このあたりまで、 細かく商品企画などが決定している場合は稀だと思います) 。手先の技術とは異なりますが、このような部分は、 ソフトウェアも職人芸的に技術者の差が生じる場合があります。 自分がソフトウェアを担当した製品の レビューやユーザーの感想で、 操作部や機能を誉めていただいたときもうれしいですが、 このような語られることのない制御部分によって 作り出されたキャラクタや音感などが誉められていると、 努力して作り出した音感を わかってもらえたことが一際うれしいと感じます。 そうそう頻繁にあることではありませんが |
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それでは、 次回もよろしくお付き合いください。 (^^)
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音と音響の四方山 ■ デジタルアンプの理由 |
このコーナーは 音や音響についてのコラムをお届けしています。 あまり指向を決めているわけではありませんので、 雑多な感じになりますが、 お付き合いいただければ幸いです。 | ||
テキスト版のアメニティ&サウンドでも デジタルアンプについて話題にしたことがりますが、 今回は、デジタルアンプを話題にする理由などを書いてみます。
▼テキスト版 Vol.30 2003年5月15日で話題にしました |
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デジタルアンプのコンシューマでの拡大 |
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デジタルアンプは古くからD級アンプとして知られた技術ですが、 近年ハイエンドのコンシューマー用オーディオ機器でも 採用が目立つようになってきました。 技術的にスイッチングノイズを克服できるようになったことと、 多チャンネルのパワーアンプを必要とする ホームシアターのアンプを小型、廉価にすることが AV分野での大きな理由だと思いますが、 他にも携帯機器、 ノートPCやMDヘッドホンステレオなど の携帯用オーディオなどでも消費電力を低くできるため、 いろいろな分野で採用されています。 物理的にもアナログのパワーアンプに比較して 小型にすることが可能なので、 薄型のテレビのアンプやミニコンポなど、 スペースファクターでも利用分野が多い技術です。 また、ハイファイのAVでは、 デジタル信号を最終段階までデジタルのまま処理して 途中段階での外来ノイズや信号劣化を抑える目的で 採択されています (この理由は少数派だと思いますが)。 大きなパワーを必要とする商用施設の音響機器でも 消費電力や放送室、 機械室などでのスペースファクタなど魅力が高いのですが、 それほどのシェアにはなっていないようです。 今後、業務用は、 デジタルスピーカへと移行する可能性もあり、 設備投資のコストの影響も大きいので、 パワーアンプのデジタルアンプが主流になるのか、 デジタルスピーカに移行するのかは、今のところ、 あまり、はっきりした動向はないように見えます。 |
デジタルアンプデジタルアンプを全くご存知ないかたもいらっしゃるかもしれませんので、 一応、簡単にご紹介します。 デジタルアンプというのは、 信号をデジタルのパルスに変換し、 そのパルスを積分してアナログ量に変換する方式の 信号増幅器のことをさします。 大まかに分けると、 パルスの幅を変化させるタイプと パルスの密度を変化させるタイプの 2種類が考えられますが、 パルスをフィルタによって積分して アナログに変換している考え方の根本は同じです。 パルスの密度を変化 パルス幅が変化(PWM) デジタルアンプは、 高効率で熱損失が非常に少なく、 消費電力を低く押えることができる点と、 デジタルで伝送入力された信号をアンプ内部の 出力ギリギリまでデジタルで処理することで ノイズや歪などが少なくできる可能性が高い所が良い点です。 かなり古くからある技術ですが、 高速にスイッチしている影響が音質に現るため 高音質にするのが難しかったので、 音響用のアンプではあまり採用されませんでした。 技術的に音質も改善できるようになって来たことと ホームシアターや携帯機器など、 消費電力のメリットがある民生分野が発展して来たため、 急速に採用ケースが拡大しています。 |
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さて、 デジタルアンプの動向を話題に取り上げることが多い理由です。 1つには、ARIは、デジタル音響機器の開発や、 業務用の音響にかかわっているということが 動向を注目している理由です。 もう1点、ARIがディストリビュータをしている 米AURASOUNDの 振動体感用ユニットBass Shaker 用のシステムで、パワーアンプの消費電力が問題となるからです。 |
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体感振動ユニット Bass Shakerのアンプ |
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以前に、このメールマガジンでもご紹介しましたように、 ARIは、オーディオ信号を利用した振動ユニット Bass Shaker を利用したシステムを扱っています。 Bass Shakerは、 スピーカと同じ仕組みで振動していますので、 オーディオ信号をパワーアンプでドライブして使います。 体感アトラクションや イベントブースでのパワーのある振動をさせるため、 ユニットは、50W、25Wなどのものを複数使用することも多く、 ユニット数が多い場合には、 そのパワーアンプの設置場所と総ピーク電力が必要になります。 この時、パワーアンプの効率、 消費電力は決して小さいものではないので、 効率が良いデジタルアンプが適しています。 |
たとえば、Bass Shaker を100席程度のシアタータイプに設置するケースでは、 50Wのユニットならば、ピークで50×100=5000Wのパワーが必要で、 そのときのパワーアンプの消費電力、 設置スペースは決して軽く考えてよいほど小さくありません。 業務用やコンシューマ用のオーディオ用パワーアンプで デジタルアンプが普及し、汎用製品が利用できると コストパフォーマンスの良いシステムを提供することが可能なため、 音響的な理由以外に、 体感振動システムでの利用という点からも デジタルアンプの動向に注目しています。 |
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音質などの面で技術克服できるところまできたデジタルアンプは、 今後、各分野でさらに拡大してゆくと予想されます。 先に少し述べましたが、 必然的にプロオーディオでのシェアも拡大するものと予想されますが、 スピーカにアンプを持たせてコントロールするという観点でデジタルスピーカ として採用される可能性もあります。 中小規模の施設では、コスト的にも、機能的にも、 デジタルスピーカの採用動機が薄いため、 パワーアンプがデジタル化される方向が有力かと考えますが、 大規模施設の場合には、 配線やメンテナンスなどの理由から スピーカ側にデジタルアンプを装備する方式がとられるかも知れません。 アンプ部のデジタル化という意味では基礎技術は同じですが、 機器の動向を予想するのは難しいところです。 |
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それでは次回もよろしくお付き合いください。 (^^)
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■□ 編集後記 □■ |
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「音を処理する」 では、前回と2回にわたって音の処理に関連した内容をお届けしましたが、 今回の内容などは、専門的に細かくならないようにしようとすると、 少し抽象的表現が多くなってしまって、あまり、 題材としては適していないかとも感じていますがいかがだったでしょうか。 (表現力、文章力が劣る問題は大きいですが) どうも、理解しやすくしようとすると、 比較的専門性の高い技術説明のようになってしまうため、 細かい技術説明を避けられるようにしたつもりですが、 少し抽象的でイメージしにくい状態になった気がします。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− このメールマガジン、テキスト版に数人の方にご感想をいただきました。 ご感想ありがとうございました。 ご期待に答えられる内容とできるかはわかりませんが、 今後とも、どうか、よろしくお願い申し上げます。 このHTML版の場合に、 文の途中に不自然なスペースが挿入されている点ですが、 これは、一部のメールソフトがコードでの1行の文字数が制限され、 長くなるとエラーになることを回避するため、 比較的短くコードで改行していることで空白が挿入されています。 できれば、手間でもありますし (以外と面倒です) 見苦しいので避けたい所ですが、 表示できないのでは仕方がないと考え、 毎回、最後に改行処理を行っています。 それでは、 次回、2003年8月号もよろしくお願いいたします。
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■□ 配信と配信中止 □■ |
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